山廃仕込

 乳酸酸性の条件下で健全な酵母を増殖させアルコール発酵を行うことが清酒製造の技術的特徴です。酵母を最初に増殖させる過程が「酒母」(「もと」ともいう)ですが、「速醸系酒母」と「生もと系酒母」に大別されます。速醸系酒母はスタート時に製成品の乳酸を添加して10日〜2週間ほどでできるのに対し、生もと系酒母は自然に存在する乳酸菌によって乳酸を作り出すため約1ヶ月の時間がかかります。
 生もと系酒母では、まず硝酸還元菌が増殖し水中の硝酸を亜硝酸に変えます。これによりバクテリア類が死滅し、この状態で乳酸菌が増殖します。乳酸菌が乳酸を作り、phを酸性にして行きます。これにより硝酸還元菌と野生酵母が死滅し、乳酸菌も自らが作った乳酸により死滅します。この乳酸酸性条件下で増殖できるのは清酒酵母のみです。ここで清酒酵母を植菌して健全に増殖させてゆきます。
 生もと系酒母のなかで、蒸米を櫂によってすりつぶす”山卸し”という工程を行うものが「生もと酒母」、「櫂でつぶすな麹で溶かせ」という考え方により山卸しを行わないものが山卸し廃止酒母、即ち「山廃酒母」です。また「山廃酒母」による酒造りを「山廃仕込」といいます。
 発酵管理の安全性が高く且つ現代的な嗜好に合いやすいのは「速醸系酒母」で、全国的には大部分こちらにより造られておりますが、「生もと系酒母」は時間と手間がかかるだけに酸味の多い濃醇で重厚な味わいの酒が造れます。ここでは喜多屋の「山廃仕込」による純米酒造りをお見せいたします。       株式会社 喜多屋



山廃酒母 仕込初日
前日できあがった酒母麹 8:15 タンクに仕込水と酒母麹を投入
 この工程を「水麹」という、品温3.5度
酒母タンクは外側から氷で冷却 8:30 蒸米を甑で蒸す 9:30 蒸米取りだし
蒸米を麻布に包み箱に入れる さらに上を布団でおおう
 ビニールで包んで保温し蒸米をむらす
10:30 蒸米を広げ冷やす 11:00 蒸米をタンクに仕込み撹拌する 11:10 品温をチェック、9.0度
11:30 中に冷却器を入れ外からは氷で冷却
16:00 蒸米が水を吸って膨れた状態
16:10 冷却器内側の蒸米を全て外側に出す
冷却器内側の液面が見える 外の蒸米をきれいにならす この液体に麹の酵素が溶けだしている
冷却器内側の液体を汲み出し外側の蒸米に掛けることを「汲み掛け」という
「汲み掛け機」のセットを確認する安達部長と原口主任
16:20 「汲み掛け」開始、これにより麹の酵素が均一に蒸米に吸収される


山廃酒母 2日目・3日目
酒母室の室温は7度位
10:00 汲み掛け終了 品温5.0度
これから硝酸還元菌がが増殖する
3日目 品温5.0度キープ この時期を「打瀬」といい、硝酸還元菌が硝酸を亜硝酸に変える


山廃酒母 4日目
品温4.5度 「打瀬-うたせ」完了 蒸米が溶け始めているのが判る
これを「暖気樽-だきだる」という。中に60度の湯を入れ、品温を上げる操作に使う
9:00「初暖気(はつだき)」 初めて暖気樽を入れる事、これから乳酸菌が増殖


山廃酒母 5日目・6日目
5日目 「暖気樽」は品温が均一になるようタンクの中で動かす 品温7度へ
5日目 品温が2度上昇したら暖気樽を抜いて外周に氷を入れ冷却に移行する 品温6度へ
6日目 品温経過簿 黒線が品温、赤線が気温


山廃酒母 8日目〜11日目
8日目 これは「暖気樽」で暖めているところ
10日目 外は氷、中に入っているのも冷水の樽
品温初めて10度を越える、ボーメ14.0
11日目 品温経過簿 このように品温の上昇と下降を繰り返しながら徐々に上げてゆく


山廃酒母 14日目
暖気樽による加温と氷による冷却を繰り返しながら品温は12度を超える。酒母室の冷房もそれに合わせ、加温するときは止め、冷却するときは入れる。ボーメ14.4、酸度2.6、アミノ酸度3.4で、酵母の増殖はまだ始まっておらずアルコールは0。


山廃酒母 17日目・19日目
17日目 フラスコ培養した「喜多屋酵母」を添加、これから酵母の増殖が始まる。
19日目 酵母増殖により「暖気樽」の周囲に細かい気泡が見え始める。「ふくれ」という。品温は15度まで上昇し、保温のため布団で包む。ボーメ16.0、酸度4.2、アミノ酸度5.1。


山廃酒母 21日目・22日目
21日目 酵母の増殖による軽く白い泡が増える。「本ぶくれ」
22日目 酵母増殖により酒母は涌き始め(「涌付き」という)、品温は約20度と上昇が早くなる。クリーミーな泡が表面を覆う。「高泡」


山廃酒母 23日目・24日目
22日目から23日目にかけて最後の暖気樽を入れる。「止暖気(とめだき)」という。この後は酵母の発酵熱のみで品温を維持する。品温22度。状態は高泡。
24日目 品温22度で一定、「涌付き休み」という。ボーメ8.0、酸度8.5、アミノ酸度5.2。


山廃酒母 25日目
24日目4PM 酵母は十分増殖している。外周に氷を入れ冷却を開始する。
25日目 内部にも氷と冷水を入れた冷温機を入れてさらに13.5度まで急冷し酵母の増殖を止める。この冷却操作を「もと分け」という。ボーメ6.5、酸度8.55、アミノ酸度5.3。


山廃酒母 27・28日目
27日目 山廃酒母は出来上がっている。表面は山吹色を帯び粘り気のある泡面となる。
28日目 タンク外部・内部とも氷と冷温機での冷却を続け、品温を3.5度まで下げて維持する。これから初添までは酒母を落ち着かせる調整期間で、「枯らし」という。


山廃酒母 29日目・30日目
29日目 「枯らし」を経て出来上がった山廃酒母
30日目 添仕込直前、櫂入れされた酒母

株式会社 喜多屋     


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